中医学について

この「中医学について」は、愛・地球博で行ったワークショップでの講演内容の一部です。

東洋医学による診断・治療のベースとなる考え方です。

簡単ではありますが、興味のある方は是非ご一読をどうぞ。

 

 

陰陽論(いんようろん)

●陰陽の調和と対立

●陰陽の消長

●陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる

 

◎様々な現象を「陰と陽」のふたつに分けて整理する考え方です。

 たとえば「男は陽・女は陰」「太陽は陽・月は陰」「朝は陽・夜は陰」

 人間の身体でいえば「背中は陽・お腹は陰」(犬などの動物は背中が太陽に向いています)

 「便秘は陽・下痢は陰」「顔面紅潮は陽・顔面蒼白は陰」など。

 このように物事を大きくふたつに分けて考える分析法です。

 

 陽  男  太陽  朝  天  表  上  明  火  夏
 陰  女  月  夜  地  裏  下  暗  水  冬

 

 陽  昼  右  南  熱  動 奇数 背中 皮膚 便秘
 陰  夜  左  北  寒  静 偶数 お腹 内臓 下痢

 

 

五行説(ごぎょうせつ)

古代中国人は「木・火・土・金・水」という五つの要素を選んで五行と称しました。

そして、この五つの要素で、事物間の相互の現象を説明しようとしたのです。

 

 

【五行の相生関係】

 

●五行には相生関係という関係性があります。

 

「・木は燃えて火を生み

 ・火は燃え尽きて土にかえり

 ・土の中から金属が生まれ

 ・金属の表面から水がうまれ

 ・水は木を成長させる 」

 

という相互の関係性をいいます。

このように自然界のすべての事物は各々に助け合い、関連し合っているという考え方です。

 

気・血・津液(き・けつ・しんえき)

【 気 】

 

●気には「先天の気」と「後天の気」があります。

「先天の気」とは、親から受け継いだ遺伝的生命力の事です。

「後天の気」には「清気(空気)」と「水穀の気(食べ物から得た栄養分)」があります。

これらがひとつになって「元気」を作り出します。

「元気」は体中を巡り、生命を維持しています。

 

 

●気には6つの働きがあります。

《1.推動(すいどう)作用》

 推動作用とは、血や気の流れを推進したり、臓器の働きを促進したりする作用のことです。

 

《2.防御(ぼうぎょ)作用》

 防御作用とは、体外から入ろうとする外邪(病気の原因)の侵入を防いだり、侵入した外邪と戦ったりする作用の事です。

 

《3.温煦(おんく)作用》

 温煦作用とは、体を温める作用の事です。

 

《4.気化(きか)作用》

 気化作用とは、気・血・津液などを相互に変化させたり、津液(身体の中の水分)を汗や尿に変化させる作用の事です。

 

《5.固摂(こせつ)作用》

 固摂作用とは、排泄や分泌の調節を行い、汗や尿・血液(出血)などが必要以上に体外に流出しないようにする作用の事です。

 

《6.栄養(えいよう)作用》

 栄養作用とは、食べ物などから得られた栄養分で身体の各部分を栄養する作用の事です。

 

 

 

 


 

【 血 】

 

●中医学でいう「血(けつ)」は、西洋医学でいう血液のほか、血液循環なども含めています。

 血は全身を栄養しています。また、精神活動にも大きく関与しています。

 

 

●血には3つの働きがあります。

《1.栄養(えいよう)作用》

 栄養作用とは、全身の組織・臓器に、食べ物などから得られた栄養分などを与える作用の事です。

 

《2.滋潤(じじゅん)作用》

 滋潤作用とは、髪や爪・筋肉・皮膚などに」潤いを与える作用の事です。

 

《3.安神(あんしん)作用》

 安神作用とは、精神の興奮を鎮め、バランスのとれた精神状態・思意活動を保つ作用の事です。

 

 


 

【 津 液 】

 

●生命活動を維持するのに必要な水分の総称で、関節や臓器の働きを滑らかにしたり、不要な成分を尿や汗として排出したりします。

 また、血液の組成成分でもあります。

 

 

●津液の働きとしては、水分を媒介することで気や血の機能を支えることです。

《1.滋潤(じじゅん)作用》

 滋潤作用とは、気の機能を支えるため、津液が皮膚や粘膜などの体表を巡って潤いを与える作用の事です。

 

《2.濡養(じゅよう)作用》

 濡養作用とは、血の働きを支えるため、津液が体内の深部を巡って、臓器に栄養を与えたり、関節の動きを滑らかに保ったりする作用 の事です。

 

《3.排出(はいしゅつ)作用》

 排出作用とは、津液が汗や尿・鼻水などの形で、余分な熱や老廃物を体外に排出したりする作用の事です。

 

五臓(ごぞう)

●五臓は五行説からうまれたものです。

「木=肝」「火=心」「土=脾」「金=肺」「水=腎」

 

肝(かん)

●木に属する肝は、上に向かって伸びる木のような性質を持っており、気を伸びやかに体内にめぐらせます。

 

 

●西洋医学的にいえば、肝臓と自律神経系の働きに似ています。

 

 

●肝の働きには「疏泄作用」「蔵血作用」「昇発作用」があります。

《1.疏泄(そせつ)作用》

 疏泄作用とは、身体全体に気・血・津液を滞りなく巡らせたり、量を配分調節する作用の事です。

 

《2.蔵血(ぞうけつ)作用》

 蔵血作用とは、脾で作られた血液を貯蔵し、体内を流れる血液量を調節する作用の事です。

 

《3.昇発(しょうはつ)作用》

 昇発作用とは、気血を身体の上部に上昇させる作用の事です。

 

心(しん)

●火に属する心は、太陽のようなエネルギー源であり、司令塔の役割を持っています。

 

 

●西洋医学的にいえば、心臓と精神系の働きに似ています。

 

 

●心の働きには「血脈を主る」「神明を主る」があります。

《1.血脈を主る(けつみゃくをつかさどる)》

 血脈を主るとは、血営循環や心臓のポンプ機能など、血液の流れを統括する作用の事です。

 

《2.神明を主る(しんめいをつかさどる)》

 神明を主るとは、精神活動や思惟活動などを中心的に行っている作用の事です。

 

脾(ひ)

●栄養をたっぷり含んだ土に属する脾は、西洋医学の脾臓とは大きく異なり、

胃腸の働き全般に関わり、生命活動に必要なエネルギーを生み出します。

 

 

●西洋医学的にいえば、胃腸全般の働きに似ています。

 

 

●脾の働きには「運化作用」「昇清作用」「統血作用」「気血生化の源」があります。

《1.運化(うんか)作用》

 運化作用とは、消化吸収に関わる胃腸の働きや、飲食物から得られた水分や栄養分を運搬する作用の事です。

 

《2.昇清(しょうせい)作用》

 昇清作用とは、飲食物から得られた水穀の気を上方の肺に送ったり、内臓が下垂しないように位置を保持する作用の事です。

 

《3.統血(とうけつ)作用》

 統血作用とは、血液が血管から漏れ出るのを防いだり、血流を正しい方向に導くなどの作用の事です。

 

《4.気血生化の源(きけつせいかのみなもと)》

 気血生化の源とは、飲食物から水穀の気(栄養分)という気血の大元を作り出す作用の事です。 

 

肺(はい)

●肺は西洋医学と同じ呼吸だけでなく、津液を全身に送ったり、免疫機能の働きをしています。

 

 

●西洋医学的にいえば、呼吸器系と免疫系の働きに似てます。

 

 

●肺の働きには「宣散作用」「粛降作用」「免疫作用」「呼吸を主る」「水道通調」があります。

《1.宣散(せんさん)作用》

 宣散作用とは、脾から送られてきた栄養分や津液を全身に散布したり、肺がフィルターとなって不要なものや過剰なものを 外界へ放出する作用の事です。

 

《2.粛降(しゅくこう)作用》

 粛降作用とは、気の流れを下向き・内向きに流す作用です。また、空気を吸うことで、体外から清気を取り込む作用でもあ ります。

 

《3.免疫(めんえき)作用》

 免疫作用とは、体表面で外からの邪気が入らないようにし、体内環境を守るバリアとしての作用の事です。

 

《4.呼吸を主る(こきゅうをつかさどる)》

 呼吸を主るとは、通常の呼吸や、深呼吸をsたときの呼気に関わる作用の事です。

 

《5.水道通調(すいどうつうちょう)》

 水道通調とは、肺に運ばれた津液を、全身に分布する作用の事です。

 

腎(じん)

●腎は先天的な生命力のおおもとであり、西洋医学の泌尿器の働きと、成長や発育・生殖に関わる働きをします。

 

 

●西洋医学的にいえば、泌尿器と内分泌系(ホルモン系)の働きに似ています。

 

 

●腎の働きは「先天の本」「水を主る」「納気」があります。

《1.先天の本(せんてんのほん)》

 先天の本とは、両親からもらった生まれつき備えられた生命力の事です。

 

《2.水を主る(みずをつかさどる)》

 水を主るとは、腎に運ばれてきた水分を、必要なものは再吸収し、不必要なものは尿として排出す作用の事です。

 

《3.納気(のうき)》

 納気とは、深呼吸や腹式呼吸などの深い呼吸により取り入れた清気を納める作用の事です。

 

 

八綱弁証(はっこうべんしょう)

●八綱とは、陰陽・虚実・表裏・寒熱の8つを意味しています。

この八綱を使って、その病気がどうして起きたのかを診断する方法を「八綱弁証」といいます。

 


 

【陰陽とは】

すでに上述したとおり、病気を大きくふたつに分けて分析する方法です。

「機能の降心火、機能の低下か」などの診断に使います。

 

 


 

【表裏とは】

病気の深さを分析する方法です。

急性の病気や身体の浅い部分の病気を「表病」

慢性の病気や身体の深い部分の病気を「裏病」といいます。

 

 


 

【虚実とは】

病気の勢いや強さを分析する方法です。

虚実の「虚」とは、身体の機能が低下したような状態を指し

「実」とは、身体の機能が亢進したような状態のことをいいます。

 

 


 

【寒熱とは】

文字通り「冷えの病か、熱の病か」ということです。

 

 


 

●基本的な考えとしては、冷えの病にはお灸を使い、熱の病には鍼を中心に行います。

ただそれはあくまで基本的な捉え方で、単純に病気を冷えと熱に分けるわけではありません。

たとえば、1日に何時間もパソコン作業をする人や、人一倍他人に気を使う方、

人間関係や健康のことなどで悩みのある方などは、たえず頭を使うために気が頭の方に偏り、

その反面、下半身には気が巡らず、上半身は熱っぽいのに下半身は冷えている、という状態になります。

これを「上熱下寒」といい、「寒熱挟雑」という冷えと熱の両方の病、ということになります。

このようなことは比較的多く、複雑に絡み合っていることも少なくありません。

 

補瀉(ほしゃ)

「補瀉」というのは、鍼灸治療においてつかわれるもので、病に適した鍼の打ち方・刺激の量によって、弱りを補ったり亢進を鎮めたりすることです。

 

 


 

【補(ほ)とは】

虚の病に対して補法(ほほう)という治療を行います。

虚という機能が低下した病に対して、その機能を高めてあげる治療法です。

鍼・灸とも、比較的軽い刺激で行うことが多いです。

 

 


 

【瀉(しゃ)とは】

実の病に対して瀉法(しゃほう)という治療を行います。

実という機能が亢進した病気に対して、その機能を抑えてあげる治療法です。

鍼・灸とも、企画的強めの刺激で行うことが多いです。

 

 


 

◎「私には鍼が合う」とか「私には鍼が合わない」という声を耳にすることがありますが、

実は鍼そのものが合う・合わないということはありません。(お灸は熱の病の人には不向きということはあります)

「鍼が合わなかった」という経験があったとしたら、身体が弱っているときに強めの刺激をしたとか、

逆に亢進している割に刺激が弱すぎて変化が出なかった、という可能性が大きいと思われます。

 

このように、人それぞれの身体にあった刺激量を判断するためにも、

先にあった虚実の状態(八綱弁証)を知ることがとても重要になってきます。